アンコール最強の王を写す

utsusu-29

回廊にあるスーリヤヴァルマン二世の浮き彫り

 

 バラモンが唱える呪文によってアンコールワットにヴィシュヌ神が降臨したのは12世紀のことだ。大きな濠と頑丈な石積みの回廊を巡らしたアンコールワットは、厳重に俗界を遮断したヴィシュヌの宮殿だった。回廊は念入りにも三重にされ、一番外側は一周すると800メートル近い。この長大な回廊の壁面が驚くほど手の込んだ浮彫りで埋められている。ヒンドゥー教の神話や古代インドの叙事詩の一場面だ。それらを残らず見ていけば半日掛りになるが、とりあえず南側にまわってみると、アンコールワットをヴィシュヌに寄進した「スーリヤヴァルマン二世」が描かれている。

 

 アンコール史上最強の王だけに仁王像のような迫力だ。豪華な玉座の上から片腕をあげて、なにやら家臣に命じている。頭上にはきらびやかな日傘が幾本も差し掛けられ、柄の長い大きな団扇が風を送っている。従者たちを圧倒する堂々とした体格、真一文字に結んだ口元、大きく見開いた冷徹な感じのする眼。「ヴィシュヌ神の化身」と恐れられた王者の風格が漂っている。もちろんこれは主役を理想化した肖像画だから額面通りに受け取れないが、体格が図抜けて大きかったことは事実のようだ。

 

 じつはアンコールワットを建設するときの長さの単位は王の腕尺(肘から中指の先までの長さ)が使用されていた。長さは43.545センチ。実際にアンコールワットを測量してみた結果導き出された数字だ。人体は肘から中指の先までの長さを4倍したものが両手を広げた長さになり、それは身長に等しい。王の腕尺からすると身長は約174センチ。現在のカンボジア男性の平均身長はたぶん160センチに満たないし、800年も昔のことだから、きっとスーリヤヴァルマン二世はだれの目にも巨体に見えたに違いない。

 

 higuchi-19-2

アンコールワットの回廊

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次